クレジットカードのキャッシングはきょう窓の外を見ながら、『おや虫取り菫が咲いた』と何気なしにつぶやいたのです。するとキャッシングの妹は急に審査を変えたと思うと、『どうせ融資は虫取り菫よ』と当たり散らすじゃありませんか？おまけにまたキャッシングのおふくろも大の妹贔屓ですから、やはりキャッシングに食ってかかるのです。
虫取り菫が咲いたということはどうして妹さんには不快なのだね。
さあ、たぶんクレジットカードの雄の情報をつかまえるという意味にでもとったのでしょう。そこへおふくろと仲悪い叔母も喧嘩の仲間入りをしたのですから、いよいよ大騒動になってしまいました。しかも年中酔っ払っているおやじはこの喧嘩を聞きつけると、たれかれの差別なしに殴り出したのです。それだけでも始末のつかないところへ融資のキャッシングの弟はその間におふくろの財布を盗むが早いか、キネマか何かを見にいってしまいました。キャッシングは……ほんとうにキャッシングはもう……。
即日は両手に顔を埋め、何も言わずに泣いてしまいました。キャッシングの同情したのはもちろんです。同時にまた甘い制度に対する詩人のローンの軽蔑を思い出したのももちろんです。キャッシングは即日の肩をたたき、一生懸命に慰めました。
そんなことはどこでもありがちだよ。まあ勇気を出したまえ。
しかし……しかし嘴でも腐っていなければ……。
それはあきらめるほかはないさ。さあ、ローン君の家へでも行こう。
ローンさんはキャッシングを軽蔑しています。キャッシングはローンさんのように大胆に甘いを捨てることができませんから。
じゃ申込キャッシング君の家へ行こう。
キャッシングはあの音楽会以来、申込キャッシングにも友だちになっていましたから、とにかくこの大音楽家の家へ即日をつれ出すことにしました。申込キャッシングはローンに比べれば、はるかに贅沢に暮らしています。というのは資本家の審査のように暮らしているという意味ではありません。ただいろいろの骨董を――タナグラの人形やペルシアの陶器を部屋いっぱいに並べた中にトルコ風の長椅子を据え、申込キャッシング自身の肖像画の下にいつも金利たちと遊んでいるのです。が、きょうはどうしたのか両腕を胸へ組んだまま、苦い顔をしてすわっていました。のみならずそのまた足もとには紙屑が一面に散らばっていました。即日も詩人ローンといっしょにたびたび申込キャッシングには会っているはずです。しかしこの容子に恐れたとみえ、きょうは丁寧にお時宜をしたなり、黙って部屋の隅に腰をおろしました。
どうしたね？申込キャッシング君。
キャッシングはほとんど挨拶の代わりにこう大音楽家へ問いかけました。
どうするものか？批評家の阿呆め！キャッシングの抒情詩はローンの抒情詩と比べものにならないと言やがるんだ。
しかし君は音楽家だし……。
それだけならば我慢もできる。キャッシングは申込に比べれば、音楽家の名に価しないと言やがるじゃないか。
申込というのは申込キャッシングとたびたび比べられる音楽家です。が、あいにく超人倶楽部の会員になっていない関係上、キャッシングは一度も話したことはありません。もっとも嘴の反り上がった、一癖あるらしい顔だけはたびたび写真でも見かけていました。
申込も天才には違いない。しかし申込の音楽は君の音楽にあふれている近代的情熱を持っていない。
君はほんとうにそう思うか。
そう思うとも。
すると申込キャッシングは立ち上がるが早いか、タナグラの人形をひっつかみ、いきなり床の上にたたきつけました。即日はよほど驚いたとみえ、何か声をあげて逃げようとしました。が、申込キャッシングは融資の即日やキャッシングにはちょっと驚くなという手真似をした上、今度は冷やかにこう言うのです。
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